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- 一人暮らしをしていたがために

お盆もそろそろ近くなった頃、私は事務所で一本の電話を受けました。
「あのぅ……、先生の事務所は、14日は、やってらっしゃいますか?」
不安げな若い女性の声でした。
「いえ、あいにく、13日から16日までお盆休みをいただいておりますが……」
明らかに落胆した様子が電話の向こうで感じられます。
「何かお急ぎでしょうか?」
「実は、この電話、東京からなんですが、ホームページで先生が成年後見にお詳しいということを知りまして、お盆休みに実家の大阪に帰るものですから、大阪で一人暮らしをしている母のことでご相談できればと思いまして……」
私は14日に入れていたプライベートの予定を延期することにして、この女性と面談の約束を入れました。

約束の日、この女性はご主人と一緒にいらしゃいました。仮にSさん夫妻と言っておきましょう。Sさんはご結婚されてご主人と東京で暮らしていましたが、ご主人がご栄転でニューヨーク勤務となり、しばらくは日本に帰ってこれなくなってしまうということでした。
ご主人のご両親はお二人ともご健在で、ご主人のご兄弟も近くにおられるので心配ないとのことでしたが、心残りはSさんのお母様とのこと……。
Sさんのお母様はなかなか子宝に恵まれず、世間から見ればかなり遅い出産だったそうです。そのため今はもう、かなりのお歳だとのこと。さらに、ご主人を5年前に亡くされており、それ以来ずっと一人暮らしをされています。またSさんにはご兄弟もなく、お母様の近くにはご親族もいないということでした。
「お友達が大阪にいますので、大阪からは離れたくないと言ってまして、できるだけ一人で頑張りたいと言ってるんですが、やっぱり心配で……」
Sさんはそうおっしゃって顔を曇らせました。
私はSさんのお母様が年齢相応の衰えはあっても、心身ともに健常であること、お金の管理は問題なくできることを確認したうえで、「見守り契約」と「任意後見契約」の説明をはじめました。
「見守り契約は、定期的に訪問や電話などで安否と健康状態を確認し、不測の事態に備える契約です。財産は一切お預かりしません。その代わり、月々の定額報酬も数千円程度と低額で済みます。そして見守り期間中に認知症の症状が見てとれたときは、速やかに任意後見契約に移行します。
任意後見契約は、家庭裁判所から選任された任意後見監督人の下で、財産管理と身上監護を務める制度です。もし仮にお母様が認知症になられても、私が任意後見人となって支援します。財産を安全に管理したうえで、お母様が快適に暮らせるよう在宅、場合によっては施設入所を検討します」

Sさんご夫婦は私の話に深くうなずき、お盆休み中に何とか目途を立てておきたいとおっしゃいました。すぐに私はお母様のご自宅にお伺いすることになり、その後、数回訪問し契約をしていただきました。
今、私はSさんのお母様とは1ヶ月に1度ご自宅に訪問して、その都度、お茶とお菓子をいただいて世間話に興じています。お母様はSさんが案じるようなこともなく、カルチャーセンターやボランティア活動で有意義な毎日を送っておられます。
「まあ、この調子だと、あの子らが日本に帰ってくるまで元気でいられそう」
そう言って微笑まれるお母様の笑顔は、とても若々しく輝いていらっしゃいます。
(この事例は事実をもとに構成したフィクションです)

























